
第6回でイギリスの議院内閣制について解説したので、今回はそれと比較しながら、アメリカの政治を通して大統領制の政治について学習していこう。そして、それを踏まえて、議院内閣制と大統領制のそれぞれのメリット、デメリットについて考察してみてください。
T:連邦国家とは
アメリカの大統領制の話に入る前に…。アメリカという国がどんな国なのか、その国家形態の話を簡単にしておきたい。それがわからないと、アメリカ人の意識やアメリカの政治システムや選挙システムで理解しにくい部分が出てくるので…。
アメリカは、連邦国家という国家形態をとる。では連邦国家とは?市民革命の話のところでアメリカ合衆国誕生の話は少し触れたね。アメリカに移住した人々がイギリス政府から独立しようとする独立戦争の話だ。独立戦争時には、アメリカ東海岸には、大西洋の向こうから自由を求めて移住してきた人々により13の都市(植民地)が建設されていた。では、この13植民地の互いの関係はどうだったか?本来的には、自由を求めてやってきた人たち、しかも移住してきた時期も異なればその人々の志向も違うわけで、決して結びつきは強いとは言えなかった。つまり、13植民地は、あくまでイギリスとの独立戦争に勝利すべく団結して戦ったに過ぎず、元々は、各植民地のつながりは薄く、互いに干渉せず独立志向が強かったのである。したがって、イギリスから独立を勝ち取った後まもなく、13植民地はばらばらの状態を維持して、それぞれが独自の路線で発展していくべきか、それともせっかくの機会なので合併して1つの国として一緒に歩んでいくべきなのか、議論された。そして人々は後者を選択した。ただし、1つにはなるが、それぞれの植民地(州)にはそれぞれの歴史があり考え方があるのだから、それは尊重しましょう、という保障の下に。したがって、アメリカ合衆国成立後も、各州の独自性や考えを尊重するスタンスで国家は運営されている。知っていると思うが、だからアメリカ合衆国を構成する50の州には独自の憲法と政治機構が存在する。飲酒・喫煙の年齢も異なれば、運転免許も違う、国家の軍隊とは別に州軍だって存在する。それらの州を統括し、各州の領域を超えた全州に関わる問題を処理するのが連邦政府(アメリカ合衆国政府)である。このような国家を連邦国家と呼ぶ。多くの国が集まって1つの巨大な国を形成していると考えてよいだろう。州の自治権は日本の都道府県と比較して非常に強いのである。このような連邦国家の形態を採る国はアメリカだけでなく、ドイツなど他にも存在する。日本も近年は、都道府県の権限を強化し、地方分権を進めて国の負担を減し、無駄のない政治運営を、ということで道州制の検討がなされるようになってきた。また、EUは、経済統合を果たしつつある現在、いよいよ政治統合の段階に入り始めた。EU憲法を制定しようという動きはその現れだ。EU憲法の制定には各国の利害が絡み、紆余曲折が予測されるが、将来的には制定され、統合に向かうだろう。そうなれば、現在の各国が州になり、ヨーロッパ合衆国の誕生である。まあ、それはまだだいぶ先のことになるかな…。
U:大統領制
では、本題に入ろう。アメリカはイギリスと違い、気付いたらそこに国が出来上がってた、というわけではない。だから、伝統も何もない。独立後、どのような国家にするか人々があれこれ議論して作っていったのだ。そこで彼らは、モンテスキューの三権分立論を強く反映した大統領制の政治システムを導入することにした。
立法権=議会 行政権=大統領 司法権=裁判所
議院内閣制と大きく違う点は、行政権の首長と、その行政権と立法権(議会)との関係だ。行政権の首長(大統領)はどのようにして選ばれるのか?選挙するのは議会ではなく国民だ。ここが議院内閣制と大きく異なる。つまり、全国で実施される大統領選挙によって大統領が選ばれる。国民の支持を得て誕生しているわけで、議会の中で選ばれたわけではない。したがって、政権存続には、議会の強い信任を必ずしも必要としない。国民が選んだリーダーである以上、議会は文句は言えない。議会は大統領の政治が納得できなくとも、大統領に対して不信任決議を提出することはできない。逆に、大統領は議会からそのような権限を行使されないのだから、議院内閣制で見られるような、首長が議会に対して行使する権限を大統領は持たない。つまり、大統領に議会を解散させる権限はない。ところで、議院内閣制では、首相は議会の中で選ばれるのだから、首相は行政権の長であるとともに、議会議員でもあるのだ(その他の大臣も議会議員を兼職しているのが一般的)。大統領は議会議員を兼職することはできず、議会に対して法案提出権も持たない。二権間の権力分立があいまいな議院内閣制と比較し、大統領制は厳格である。議会との結びつきが強く、政治が議会の意見や反応に左右されがちな首相と違い、大統領は議会の信任に依存せず、強いリーダーシップの下、自分の思い描いた政治を展開できるのである。
しかし、民主主義国家である以上、法の支配は貫徹されている。大統領だって、政治を行うにあたっては、法に基づいていなくてはならない。法を無視した恣意的な政治は許されない。アメリカ大統領といえどもアメリカ連邦議会の制定した予算や法律に基づいて政治を行う。大統領は自分の思い描く政治が展開できるよう、議会にそのような予算を組んでもらい、法律を制定してもらわなくてはならないのだが…。法案提出権を持たないから「○○のような政策を実施したい。だから、それを可能にする○○法を作ろう」というように、議会に法案を提出することはできない。議院内閣制では首相はそれができる(首相だって国会議員だからね)。かつて小泉首相は、「何が何でも郵政民営化したい。だから郵政民営化関連法を制定しよう」と、法案を国会に提出し、審議を重ね、国会解散を経て、やや強引ではあるが制定させた。では、大統領はどうするのか?議会に対して法案提出権を持たない代わりに、教書を議会に送付する権限を持つ。教書とは何か?英語では「Presidential Message」、自らの政治に必要な法案や予算の審議を議会に勧告する文書のことである。一般教書、予算教書、外交教書などなど。
アメリカ大統領は、行政権を一手に握り、陸・海・空軍の三軍最高司令官であり、各大臣や連邦最高裁判所裁判官の任免権も持ち、行政・軍事・外交の全てにおいて強い権限を振うことができるが、立法に関しては議会に直接的には強い影響を与えることはできない。三権分立が議院内閣制よりも厳格に作用しているからだ。大統領は、当選すればもう議会議員ではなくなるし、連邦議会から招かれない限り、議会に出席することもできない。そのため、もし議会に大統領の反対派の政党の議席が多かったりすると、立法には極めて苦労することになる。そのため、大統領が連邦議会で自案を通すためには、国民の世論に訴えざるを得ない。世論が強ければ議会は動かざるを得ないから…。毎年1月の大統領の年頭教書演説は、国民にアピールする絶好の機会であり、何か重大なことが起これば、ホワイトハウスの大統領執務室からテレビで国民にあれこれ語りかけるのだ。この点を見ても、大統領にとっては議会の支持よりも国民の支持のほうが重要なのである。
さて、話を戻そう。大統領は議会への法案提出権も持たなければ、議会への出席権もない。が、教書という形で議会に必要な法案の制定を要求することができるのであった(ただし、議会への強制力はない)。では、もう1つ、議会に対して持つ権限を挙げておこう。拒否権だ。議会が可決した法案が、自らの政治に邪魔になったり不用である、あるいは内容に納得がいかなければ、法案拒否権を行使できる(ただし、拒否されても議会が3分の2の多数で再可決すれば大統領それに従わなくてはならない)。
このように、立法の議会と行政の大統領の間の権力分立がしっかりしており、議院内閣制のように両者がなれ合いの関係になることはない。大統領は議会の顔色をうかがいながら政治を展開する必要はない。一方、行政のトップが与党党首であって立法も行政も与党に牛耳られるという議院内閣制のようなことも起こらない。では、首相と大統領、どちらが政治的に強い立場にあるだろうか?行政権を持ち、かつ立法にも影響を与えることができる首相だが、あくまでそれは個人の意志ではなく政党の方針にのっとっていなくてはならない(自党の議員に反感を買われては不信任決議されてしまう)。今の野田首相がTPP問題や消費増税問題で、民主党内の意見をまとめられず右往左往しているのはその好例だ。一方、大統領は政党や議会からまったく独立し、個人の信条・意志をもとに政治を展開できる。まさに、大統領一人のカラーで国はいかようにも変わるのである。その点、首相よりも大統領のほうが強いといえよう。
では、大統領制は独裁政治に結びつく可能性はないのか?もちろん、法の支配が達成されており、立憲政治が展開され、三権分立が確立されている以上、そのようなことは心配しなくてもよいだろう。しかし、10年も20年も同じ人間が大統領であり続けるようなことがあれば、知らず知らずのうちにその国はその人物のカラーに染まり、強い行政権を持つ大統領の独裁的傾向が強まる危険性は増す。それに対する工夫として、アメリカ大統領の場合、以下のようなことが定められている。
任期…4年(ただし、3選は禁止)
とは言え、アメリカ大統領の中で唯一4選を果たした者がいる。誰だかわかるかな?戦間期から第二次世界大戦末期に病死するまで大統領として執務にあたったF.ルーズベルトである。ルーズベルト政権の評価は決して低くはないし、戦時中は原則的には政権のめまぐるしい交代は混乱を招くため望ましくはないが、しかしあまりに長期政権になってしまったその反省から、戦後、3選禁止の規定が合衆国憲法に付け加えられた。なお、現在のアメリカ大統領は民主党のバラク=オバマで1期目。したがって、今年2012年の選挙で再選を狙う。
V:アメリカ連邦議会
議院
任期
定員
上院(元老院)
6年
100名(各州2名ずつ)
下院(代議院)
2年
435名(各州に人口比例で議席を配分)
連邦議会は二院制を採用する。アメリカ50州はそれぞれ面積も人口も異なるのに、上院は各州平等に2名ずつ選出する。連邦制らしく、各州の平等を尊重している形だ。一方、下院は人口比例で議席が各州に配分されている。人口の少ない州は数議席しか配分されておらず、人口の多いカリフォルニアやニューヨーク、テキサスなどには何十議席も配分されている。また、アメリカ政治は二大政党制で、二大政党は民主党と共和党である。ちなみに、ブッシュ前大統領は共和党、オバマ現大統領は民主党。
W:アメリカ大統領選挙
ここで、アメリカの大統領選挙の仕組みについて説明しておこう。連邦制であるので、各州の意見を大切にするため、選挙は各州ごとに行われ集計される。AとBの立候補者がいたら、各州で選挙をして、「我々の州の意見はAさんにまとまりました」、といった具合に、それぞれの州で答えが出る。実はこの際、有権者は大統領候補者に直接投票する仕組みにはなっていない。大統領選挙人に投票することになっている。流れとしては、まず有権者が大統領選挙人に投票、次に大統領選挙人が大統領候補者に投票という形だ。実際には、投票用紙には大統領候補者の名前と選挙人の名前がセットになって印刷されているのだが…。まあ要するに、自分が当選させたい候補者を支持している選挙人のところに○をつければよいわけだ。そして、各州ごとに集計が行われ、各州で誰を大統領にしたいかという答えが出る。最後に50州の意見が合計され、その合計が一番多い立候補者が大統領になるという仕組みだ。ただし、各州は人口により持ち票の数が異なる。1州1票ではない。1州1票ならば、計50票であるが、実は538票を候補者は争うのだ。この数字、わかるかな?上院議員と下院議員を足せば535になる。それにワシントンDCに3票与えられ、計538だ。つまり、各州の持ち票は上下院議員の数と同じということになる。簡単に言えば、選挙人とは議会議員のことなのだ。仮にカリフォルニア州の場合を話そう。カリフォルニア州は上院には2名、下院には53名の議員を送り出している。つまり、大統領選挙の際は、カリフォルニア州には55名の選挙人がいることになる。候補者Aさんを支持する選挙人たちの票が過半数の票を越えたら、カリフォルニア州はAさんを支持しているという結論になる。たとえ、Aさんの選挙人対Bさんの選挙人の得票数が、100万票対99万票の僅差であったとしても、多数決の原理でそうなる。「私たちの州は選挙の結果、両候補者を支持することにします」、などと言うことはできない、州の答えとしてAかBか、はっきりさせなくてはならない。したがって、どんな僅差であろうとも、この場合、カリフォルニア州の55票はすべてAさんに入る仕組みになっている。仮に、上院議員2名、下院議員1名を送り出す人口の少ない州の場合はどうなるか。州内の選挙の結果、Aさんに決定すれば、Aさんに3票が入るのだ。このように、1票でも多く獲得した候補者が、その州の全ての選挙人を独占する仕組みを、ウィナー=テイク=オール(勝者総取り)方式という。だから選挙戦では、大票田となる人口の多いカリフォルニア州やテキサス州などでの支持を獲得するために、候補者はそのような州を中心に熱い選挙運動を展開するのである。小さな州に行って熱心に演説をして支持を得ても、それはウィナー=テイク=オール方式ではあまり効率的な選挙運動とはいえない。以上から分かるように、大統領は国民からの選出であるが、アメリカの場合、大統領選挙は直接選挙ではなく、厳密には、選挙人を間に挟んだ間接選挙が展開されているのである。
最後に司法権について。裁判所に違憲立法審査権があるということは大丈夫だね?イギリス政治にはなかったよね?ちなみに、アメリカの政治制度にならって、日本は裁判所に違憲立法審査権を認めている。
最後の最後にもう一つだけ。大統領と首相が両方いる国は一体何なの?という質問がよくある。たしかに、フランスやドイツ、インドなどを見てみるとその通りだ。これは、実質的な行政権はどちらかにあり、もう一方は形だけ…、と考えてよいだろう。フランスや韓国の場合は、実質的な行政権は大統領にある。ドイツやインドは逆、首相にある。ちなみに、現フランス大統領はサルコジ大統領、現ドイツ首相は女性のメルケル首相。